裁判例でみる闇金事件簿その2-偽装質屋-

公開日:2018/07/15更新日:2018/08/08

カテゴリー:相談員 タグ:

裁判所

こんにちは。相談員の角田です。
今日は平成27年3月26日に福岡高等裁判所で下された裁判例を用いて、偽装質屋の実態と、その教訓についてお話したいと思います。

裁判例の関連記事
裁判例でみる闇金事件簿その1-超高金利-
裁判例でみる闇金事件簿その3-被害者の犯した強盗殺人-
最高裁判例でみる闇金事件簿

事件の概要

実質的には闇金といえる偽装質屋による事件の概要は次のとおりです。

被告(株)恵比寿は、福岡県内で「質屋えびす」と名乗り、「小口専門」「貸します」「高齢者の方大歓迎」などと記載したチラシや張り紙を、集合住宅のポスト等に掲示して顧客を募っていた。
広告を見た被害者Vは、電話で融資の申し込みをした。
応対した恵比寿の従業員は、「質物は、おもちゃの時計でも、壊れたモノでも何でもよい。」と説明した。
また、年金受給口座の通帳、キャッシュカード、銀行届出印、年金証書を一緒に店舗へ持参するように指示した。
Vは、数年前にディスカウントショップで購入した時計(1000円程度)を持参し、店舗に赴いた。
恵比寿の従業員は、6万円貸せること、返済は銀行自動振替で行う旨を述べ、Qネット(金融機関による料金口座振替サービス)の依頼書に記入させた。
Vは6万円を借り、銀行口座に支給される障害福祉年金から、自動振替で返済金を天引きされることになった。
その利息は月8%(年96%)であり、月々の年金のほとんどが返済に充てられた。
次第にVは生活費にも事欠くようになり、年金支給日毎に恵比寿の店舗に赴き、借りては自動振替で返済し、また借りては返済するという生活に陥った。
なお、自動振替による返済は質流れの期日が来る前に行われるため、Vに質流れによる完済を選択する機会はなかった。
平成24年2月、Vは、受けていた障害福祉年金の支給が終了する旨を恵比寿に連絡した。
対応した従業員は「利息だけでも今日の夕方まで入金しろ。何とかしろ。」と恫喝した。
恐怖を感じ、やむなく返済を強いられたVは生活費も尽き、食事も満足にできない状態となるに至った。
Vは地元の司法書士事務所に相談し、受任した司法書士は、代理人として福岡簡易裁判所(第一審)に提訴した。
という年金受給者をターゲットとした悪質な事件です。

裁判所の判断の要旨

この事件について、裁判所は主に次のような判断をしました。

(1)「偽装質屋」は「質屋」ではない

質屋営業法1条1項は、「質屋営業」とは、物品を質に取り、流質期限までに当該質物で担保される債権の弁済を受けないときは、当該質物をもってその弁済に充てる約款を附して、金銭を貸し付ける営業をいう。」と定めている。
この規定は、質屋営業の本質が、物品を質に取ること及び流質期限までに債権の弁済を受けないときは、当該質物をもって弁済とするという契約で貸付けを行うことを示している。
借主の返済責任は、質物が流質するという限度での有限責任であって、流質期限前に債権を取り立てることは、そもそも質屋営業法が予定するものではない。
そうすると、質物の価値に何ら関心を示さず、年金の受給口座から銀行振替制度を利用して貸金を取り立て、質流れさせないという貸付け(これを流質回避目的年金振替融資という)は、質屋営業法1条1項の質屋営業にはあたらない。

(2)「偽装質屋」には貸金業法、出資法が適用される

恵比寿は「質屋」ではない。
したがって、質屋営業法は適用されず、貸金業法、出資法が適用される。
そのため、恵比寿がVに対して行ったQネットによる口座振替は貸金業法20条の2第1号に違反する。また、その貸付利率は年96%であるから出資法5条2項に違反する。 

(3)「偽装質屋」はヤミ金融である

恵比寿は、通常の質屋営業に該当しないにもかかわらず、質屋を標榜し、多数の顧客に対して組織的に融資を行った。
このような「流質回避目的年金振替融資」は社会の倫理に反する悪質な貸付けであるという点においてヤミ金融業者による貸付けと何ら異ならない。
したがって、恵比寿がVに交付した金銭は、民法708条の不法原因給付にあたるとした原審の判断は正当である。

まとめ -裁判例からの教訓-

本裁判例からは次のような教訓が得られるものと考えます。

(1)偽装質屋は闇金であること

裁判所は、「偽装質屋」はヤミ金融であると断じています。
つまり、「偽装質屋」は「質屋」の皮を被った闇金なのです。
では、なぜ闇金は「質屋」の皮を被るのでしょうか。
それは、通常の「質屋」は質屋営業法によって、特別に年利109.5%までの上限金利が認められているからです。昔からの質屋さんには、質物を預かる大きな蔵があったりしますね。
預かった物の管理や、流質物の売却等のために、特別のコストが生じることから、このような特例が認められているのです。
物の管理も行わず、流質による完済もさせない「偽装質屋」による高利の貸付けは、このような法律の抜け穴を利用した悪質な犯罪行為です。

(2)「ソフト闇金」との共通点

「偽装質屋」の被害者は、高齢者、年金生活者という社会的、経済的弱者です。そのため、被害者は闇金犯罪等についての知識が乏しいことが多く、犯罪が表面化しにくいと指摘されています。
「偽装質屋」は、年金さえカタに取れれば、100円ライター1個でも貸付けを行います。そのため、お年寄りの中には、「親切な質屋さんだ!」と思っている人も多いそうです。
定期的に支給される年金から天引き返済されるのですから、苛烈な返済督促もありません。そのため、天引きが続く限り、「偽装質屋」はあくまで「ソフトな存在」です。
この事件の被害者の方は、障害福祉年金の支給が終了し、天引き決済が不能となったことから、「偽装質屋」の恫喝を受け、「ソフトな存在」どころか「怖い存在」であることに気付かれました。
もし年金が終了していなければ、ずっと高利のお金を毟りとられ続けたかも知れません。
このことは「ソフト闇金」による被害も同じです。
たとえ「ソフト」の皮を被っていても「闇金」が違法であることは変わりません。
「この業者、何かおかしいな。」「怖いな。」と思われたときは、すぐに当事務所の無料相談をご利用下さい。

書き込みする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


0120-830-742
お問い合わせ 闇金対策ブログはこちら 情報提供掲示板はこちら
司法書士による闇金対策ブログはこちら
情報掲示板はこちら
相談に対応するオペレーター