
Yさんが詐欺に遭ったきっかけはある日突然届いた1通のメールでした。
実際に届いたメールのタイトルは次のようなものです。
『ハズレなし‼あなたも賞金100万円をゲットしよう!【特大ビッグ宝くじ】開催のお知らせ※完全無・料※』
思わず信じてしまうような文言が目に飛び込んできます。
こうした「当選メール」による詐欺は、Yさんのように金銭的に切羽詰まった人の心理につけ込む巧妙な手口です。では、具体的にどのような仕組みで騙そうとしているのでしょうか。
メールに記載されたURLをクリックすると自動的に抽選画面となり、その場で結果ページが表示されます。当選と表示されると、今度は当選金を受け取るための振込先口座を入力する画面に切り替わり、そのまま手続きへと誘導されます。
Yさんのお給料は決して低いわけではなく、贅沢をしなければ生活を回していくことは充分可能な収入です。しかし、普段からお友達との食事が楽しみで、交際費がかさみがちだったYさんは、たびたび必要な支払いが滞ることがありました。そのときも携帯代が払えず、このままでは携帯が止まってしまうと焦っていた矢先に、このメールが届いたのです。
「さすがに100万円は無理かもしれないけど、少しくらいなら当たるかも……」
「当選すれば携帯代を支払えるかもしれない」
小さな希望と焦りが入り混じるなか、Yさんは半信半疑で抽選に参加してしまいました。『10万円当選しました』という表示が出た瞬間、Yさんは「本当に当たったのか!?」と驚き、思わず声を漏らしてしまったそうです。思いがけない通知に、Yさんは大喜び。すぐに手続きを進めました。
表示されたサイトには、氏名・住所・電話番号・銀行口座情報・クレジットカード情報・パスワードや暗証番号などの入力フォームがありました。すべての入力を終えた後、「当選金の振込には手数料が必要です」というメッセージが届いたのです。
そういうものなのかな、と半信半疑のYさんでしたが、どうしても10万円を受け取りたいという気持ちに勝てず、言われたように指定された口座に手数料として2万円を振り込んだのでした。
これで約束の10万円が振り込まれる――。
そう信じて、Yさんはスマートフォンを何度も確認しながら、相手からの連絡を今か今かと心待ちにしていました。
しかし、しばらくして届いたのは、思いがけない一言でした。
「振込が確認できないので、もう一度やり直してください。」
一瞬、何かの間違いかと思いました。確かに振り込んだはずなのに。
でも、「もう一度振り込めば今度こそ10万円が手に入るはず」――そんな期待が、疑いの気持ちに勝ってしまいました。
不安を抱えながらも、Yさんは再び指示された口座に2万円を振り込んでしまったのです。
Yさんのように「これまでの支払いが無駄になるのは嫌だ」「ここでやめたら損をするかもしれない」と感じてしまう心理は、『サンクコストバイアス』と呼ばれるものです。
「サンクコスト」とはすでに支払ってしまい、取り戻すことができない費用のことを指します。本来であれば、今後の判断に影響させるべきでないのですが、私たちはこの“失ったもの”にとらわれるあまり、「ここまで来たら最後までやらなきゃ」「損を取り返したい」といった思考に陥りやすくなります。
こうした心理は、詐欺やギャンブル、人間関係など、日常のさまざまな場面で見られます。たとえば、別れた方がいいと分かっていても恋人との関係を続けてしまったり、使わない物を捨てられなかったり、さらには、不採算のビジネスをやめられないといったケースもそれにあたります。
Yさんもまさにそのような心理状態にありました。「ここまで支払ったんだから、あと少しで10万円がもらえるかもしれない」――そう考えるうちに引き返すことができなくなっていきました。詐欺かもしれないと頭のどこかで気づいていながらも、すでに支払ったお金を無駄にしたくないという気持ちが強まり、冷静な判断ができなくなっていたようです。
結果として、何も受け取れていないにもかかわらず、Yさんはすでに4万円を失っていました。
「これで本当に10万円が振り込まれるのだろうか……」
そんな不安を抱えつつも、Yさんはわずかな希望を捨てきれずに、相手からの連絡を待ち続けていました。
しかし、いくら待っても音沙汰はありません。
時間だけが過ぎていくなかで、Yさんの中にじわじわと焦りと後悔が募っていきました。
とうとうYさんはしびれを切らし、思い切って相手の電話番号にかけてみました。
ところが、聞こえてきたのは「電源が入っておりません」という冷たいアナウンスだけ。
何度かけ直しても同じで、とうとう相手とは完全に連絡が取れなくなってしまったのです。
「やっぱり騙されたのかもしれない……」
そう思い始めたYさんでしたが、まだどこかで「もしかしたら何かの手違いかもしれない」と希望を捨てきれずにいました。
現実を受け入れられないまま、Yさんは途方に暮れてスマホを見つめていたといいます。
同じ様な手口である『融資保証金詐欺』についても、当事務所のブログで詳しく解説しています。


